◇手塚治虫以前と以後について。
日本の漫画の歴史は大きく手塚治虫以前以後に分かれると言っても過言ではありません。手塚治虫以前も「のらくろ」といった作品がありましたが、漫画の歴史を語る上で、手塚は漫画の世界を大きく発展させました。
彼の功績で大きかったものとは何でしょうか。手塚治虫は漫画にアメリカのカートゥーンの文脈や映画の技術を適用させ、コマ割りというものに革新を生みました。この時代、米国のアニメは黄金期でそれを学んだ手塚は日本にキャラクター文化を持ち込みます。また映画好きだった彼は絵コンテのようなものをマンガに取り込むのです。よく手塚マンガは映画的と言われますが、その通りで映画を参考にしているからです。そして、キャラクターに傷つく身体を与えたという評論家もいます。
米国のアニメは年を取らず、爆発や事故などどんなことに巻き込まれても次のシーンではピンピンしています。つまり傷つかない身体を持っていると言われますが、手塚はここにキャラの成長や死を描くことで漫画を大人の鑑賞にも耐えられるものに革新したと言えるのです。その良い例が医療を描いた「ブラックジャック」です。
◇トキワ荘の時代と花の二十四年組。
手塚治虫が住んでいたのは「トキワ荘」と呼ばれる小さなアパートです。ここに彼を慕って続々と有望な漫画家たちが集結します。SF漫画家で後に「ドラえもん」を描く藤子不二雄コンビ、ギャグ漫画の金字塔「天才バカボン」の作者・赤塚不二夫、トキワ荘の紅一点で少女漫画の先駆者の水野英子、「仮面ライダー」の生みの親・石森章太郎など綺羅星のごとく輩出しています。
さて、少女漫画の歴史に目を向けると花の24年組を忘れることはできません。昭和24年前後に生まれた彼女たちは、漫画のコマ割りや内面描写を大きく変えました。少女漫画でありながら、多くの作家が少年を主人公に据えて、彼らの悩みを独特の吹き出しやポエムのような表現で描いたことで表現の幅は大きく広がりました。花の24年組の旗手たちは萩尾望都や竹宮恵子、大島弓子などです。
◇漫画ニューウェーブとはなにか?
1970年代末になると漫画は少年少女が読むだけではなくなり、大人も読むようになっていました。そこで登場するのがニューウェーブと呼ばれる作家たちです。ニューウェーブの作家は大友克洋やいしかわじゅん、吾妻ひでおなどが有名です。そのなかでもマンガの歴史を変えたと言われる一番の巨人は大友克洋でしょう。
圧倒的な画力を背景に展開される大友マンガは今までの歴史のなかには、どこにも位置づけできない異質なものでした。大友の功績としてよく言われているのが背景の描写です。大友は団地やビルの描写を得意としていましたが、彼の背景は物語で重要な役割を担います。まるで建物が語っているような詩的な表現へと進みました。
いしかわじゅんと吾妻ひでおは共にニューウェーブの旗手でありながら、なかなか縁が深い二人です。よく紙面を使って論争を繰り広げ、二人を評して「リトルメジャー(いしかわ)とビッグマイナー(吾妻)」と言います。この頃、マンガは成熟を果たしており、王道というものが理解されていました。その王道をひっくり返してパロディや楽屋落ちを導入したのが両者です。吾妻ひでおは美少女キャラの描写を得意としており、彼の描くキャラクターは現在の萌えマンガにもつながっています。
◇ジャンプ黄金期とバトルシステム。
歴史のあるマンガですがいつが黄金期かと聞かれたら、漫画雑誌ジャンプの黄金期を挙げる人は多いでしょう。諸説ありますが、ジャンプの黄金期は1983年から1996年までと言われています。83年には「北斗の拳」が始まります。そこから「キン肉マン」「聖闘士星矢」などが看板となり、鳥山明の「ドラゴンボール」の登場で発行部数は加速します。ドラゴンボールは「スラムダンク」や「幽遊白書」と一緒に3大看板と呼ばれて、一時は650万部という化け物雑誌へと成長しました。
鳥山明はイラストレーター出身で、彼のデフォルメ力は漫画家界でも随一と言います。ドラゴンボールは始め、願いが叶う7つの球を集める冒険作品でしたが、徐々にバトルへと変わっていきました。ジャンプではこれをトーナメント方式と読んで、この時代の作品の多くが次から次に出てくる強敵を倒していくものとなっていきます。強さがインフレを続けていくことも特徴です。
◇漫画の過去現在未来を展望する。
ここまで歴史の流れを見てきました。各時代にスターがいて表現がどんどんと更新されていったことが分かります。現在の状況は多様化とそれに伴うスター不在の時代と言えます。
現在、漫画雑誌の数は数百にのぼると言います。少年誌や少女誌、青年誌や4コマなど、ファンや作家にとって媒体が多いことは良いことですが、その分趣向がニッチなものになりがちです。埋もれていく作品もあります。ジャンプで連載中の「ワンピース」は最後の国民的作品と言えるかもしれません。もちろんこれから新たなスターが出てきて革命を起こす可能性もあるでしょう。